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第3回 一人ブレーンストーミング法のすすめ
 アイデアの発想方法で必ず取り上げられる手法にブレーンストーミング法があります。アメリカで60年ほど前に考案された手法で、何人かが集まり、あるテーマをめぐって、 既成概念にとらわれず自由奔放にアイデアを出し合おうというものです。
 考案者のオズボーン氏によれば、「ブレーン(頭脳)で問題にストーム(突撃・嵐)を起こすこと」なのだそうです。
ブレーンストーミングを行うときの心構えとして以下のものがあります。

* 他人の意見・発言内容は批判しない。
* 人の話・アイデアへの便乗は自由。
* 「恥ずかしい」という感覚をなくして、何でも思いついたことを発言する。
(質よりも量を狙う)

 アイデアを出す場合、これらは確かに大切なことと思います。でも私はもっと大切なのものがあると思います。それは、ブレーンストーミングに参加するメンバー全員が同じ目的、共通の問題意識や危機感を持って臨むことです。

 私も組織に所属して企画業務を担当しているとき、この種の会議に業務指示として出席したり、司会者の立場で臨んだことが多くありました。しかし正直いってブレーンストーミングの心構えは守っているもの、なかなか効果が出てきません。 メンバーの気分を和らげるため、会食や少々のアルコールを交えての開催も行いましたが期待するほどの効果はあがりませんでした。 今、この原因は何だったのかを考えると、それはメンバー全員が「緊張感」、「危機感」など共通なものを持ち合わせていなかったからではないかということです。
 たとえば、メンバー全員が「会社の経営を安定させるには」とか「ゼロ成社会でも生き残るには」といった同じ気持ちで臨む必要があったのではないかと思います。 でも本心からこの気持ちになれる人は、会社のトップの人を除くと、どれだけいるでしょうか。 メンバーの中にいろいろ発言やアイデアは出すが、なんとなく位相や目的意識のずれを感じる人もいますし、「業務指示だから仕方なく出席している」という人が混じっているなど、いろいろな要素が効果を低下させます。
 最悪なのは、「この時間があれば、今の急ぎの課題が片付けられるのに」と思っている人です。実は私も日程に追われる日々の中で、このような考えで臨んだときもありました。これでは効果があがりにくいのも当然と言えます。

 そこで私が試みを始めたのが「一人ブレーンストーミング法」です。

 誰しも多重人格と言わないまでも、いろいろな「自分」を持ち合わせています。
たとえば、標準モードの自分、ふらちな自分、シャイな自分、時には大胆になれる自分、小さなことですぐに落ち込む自分、人のことばにすぐに乗せられる自分などのように。 このようないろいろな「自分」達を集めて会議を開くのが「一人ブレーンストーミング法」です。その会議の司会者として「まじめな自分」も登場させ、意見やアイデアを出させるのです。

 たとえば、「健康」をテーマにして何かのネタ探しをする場合、健康な自分は「まったく健康を意識していないときが健康なのだ」と言います。一方、以前救急車で病院に担ぎ込まれたときの自分は「日ごろからの摂生が健康の源だ」と回顧します。情報収集家の自分が「そういえば、笑うことで癌細胞の増殖が抑制されるって聞いたよ」と言い、 ふざけた自分が「笑いのツボ刺激マシンなんてものがあれば買うよ」などと言い出します。このようにいろいろな意見やアイデアを自由に出させながら進めて行きます。
 このような流れの中から「健康な人間に、肉体的にも精神的にも負担の少ない、さらに贅沢を言えば置き場所も取らない健康維持ツールはないか」というヒントが得られたとします。
 何かが見つかったと思ったときは、会議の雰囲気を壊さないように、キーワードとして「健康維持ツール」とメモしておきます。そして会議が一段落したあとでもう少し詳しくメモに残します。 次回はこれを「ネタ」にして、具体的な商品像のアイデアを見出す「会議」を開くようにします。

 一人ブレーンストーミング法の最大の利点は、共通の「目的」、「緊張感」、「危機感」が何もしなくとも得られていることです。ついでに会議日程の調整も会議場所の確保も必要ありません。 また、この手法では、物的な面だけでなく、精神的なアイデアも見出せることが多々あります。
 一人ブレーンストーミング法の欠点は、行き詰まることも多いことです。特に手法に慣れるまではよく行き詰まります。会議中、今はどの自分が発言したのか、次は誰の番などと、 あまり杓子定規に考えないことも肝要です。なにぶん「自分」だけですから、会議中、なにやらぐちゃぐちゃになって分からなくなってくることもあります。
 このようなときや、行き詰まってしまったときは、エイヤッとばかりに「会議」をリセット、あるいは終了します。 対戦型ゲームでこれをやると人間関係を損ないますが、一人ブレーンストーミングでは誰も怒りませんし、なんら問題も発生しません。場所や時間を変えてやり直せば良いのです。

 「会議」を開催する場所もこだわる必要もありません。ただ、部屋の中に閉じこもってやるより、刺激のある場所の方がお勧めです。 私は移動中の電車の中で、よく開催させます。 向かい側に座っている人のファッションや持ち物、つり広告の内容、窓から見える景色や看板など刺激とネタには困らない場所ですので、いろんな自分からたくさんの発言があり、結果としてヒントを掴む機会も多くなります。 ただ、ついつい「会議」に没頭して、顔の表情をいろいろ変えていることもあるようで、向かいに座っている人の奇妙な視線で我にかえることもありました。

 公衆の中でやる場合は、他人に「へんな人」に間違えられないように注意しましょう。