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第15回 熟考する植物

 中学校の頃だったと記憶していますが、「人間は考える葦である」という言葉を聞いたとき、 「葦(植物)は考えないのか」と疑問が湧いたのを覚えています。子供の頃(今も?)、 周りから「天邪鬼」と言われる所以かも知れません。

 なぜこのようなことを言い出したかと言いますと、先日訪れたショップのインテリアコーナーで、 根がないにも関わらず花を咲かせている植物に出会いました。
 切花なら当たり前のことで、とりたてて言うことはありませんが、それは立派に生きている植物、「エアープランツ」でした。 葉から空気中の水分を取り込むので、「お手入れが楽」と言った内容のキャッチフレーズで販売されていました。

尊敬に値する存在

 あまりの効率の良さ、他に迷惑をかけない生き方に尊敬すべきものを感じ、以降「彼」と呼ぶことにします。 彼についてネット上で調べると、いろいろ情報が掲載されています。
 ブロメリア科ティランジア属の植物です。馴染みのあるもので言えばパイナップルもその仲間の1つです。 葉から空気中の酸素、二酸化炭素を取り込むのは植物の常道ですが、彼は水分や養分とする窒素までも葉から 取り込む機能を持っているようです。根も一応はあるのですが、これは何かに掴まるためのもので、水分・養分 の吸収はしないようです。種の保存は株分かれ、つまりクローンによる増殖です。
 つまり、彼が本来暮らしていた環境と同レベルの太陽と空気、そしてたまの降雨があれば、動物や昆虫の手も 借りることなく生き続けることができるのです。
 人間の立場から見れば、全くの世話要らずということで、今ガーデニングブームも手伝い、人気が上がりつつあるようです。

 彼の姿は、これまでの熟考と的確な対応を進めてきた答えの1つと見ます。
 現在、彼は地球の温暖化という他の生き物が引き起こした迷惑極まる環境の変化に如何に対応するか、思考を続けていると思います。

 なぜ彼が現在のような姿になったかですが、多分、何らかの理由で根からの水分吸収がままならぬ環境になってきたとき、 葉が朝露に濡れるのを感じたり、あるいは気孔から取り入れた空気中の水分を感じ取り、これをなんとかできないものかと考えたのではないでしょうか。 そして、葉の構造の変革に取り組んだのでしょう。

試行錯誤との差

 人間が良く利用する手法に「試行錯誤」があります。しかし、彼は決して「試行錯誤」はしていないのではないかと推測します。
「試行錯誤」は、英語では「trial and error」。つまり、いろいろ試行して失敗を繰り返しているうちに、 偶然成功するのを待つことです。
 もし、彼がこの手法を使っていたとすると、失敗した時点でとっくに絶滅していたでしょう。 彼は「熟考」と「結果が出る前の予測」、そして「それにいち早く対応する」ことで生き残ってきたはずです。

 人間的発想からすれば、何か新しいことに取り組む場合、必ずリスクは付いてまわります。ただ彼の場合、 「失敗」は絶滅につながることから、絶対に許されないのです。
 このことから、彼はシミュレーション機能さえ持っているのではないかと勝手に推測しています。  人間社会の場合、「失敗は成功の素」などと言って、失敗が許容される場合もあります。この言葉、 発想法を全面的に否定するものではありません。
 しかし、試行する対象が複雑なレベルや危険を孕む場合、失敗したときのダメージや後遺症が大きな被害 ・マイナスをもたらします。たとえば原子力関連がその代表例です。

 彼を見ていて、ふと思いついたのは「発想は大胆・自由に、しかし試行は慎重に」と思い知らされる次第です。
では、具体的にどうすれば良いのかまでは、現時点では私自身まだまだ考えが及ばない状態です。

 一度、身の周りの生き物を「師」と思って眺めてみてはいかがでしょうか。
観察や見方によって、学ぶべき点、あるいは何かを教えてくれると確信します。

エアープランツ 「ファシクラータ」
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