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第10回 視野角を広げる

 学生のころ、試験の監督官が机と机の間をゆっくりと後ろ向きに歩いていた記憶はありませんか。 もちろん階段状の教室では、不可能ですが。 後ろ向きに歩くと、前向きに歩いているよりも視野角がぐっと広がり、不信な動きを見つけやすいからです。

 街の真中や地下街など、人の多い場所では危険なためできませんが、もし人や車が通っていないビルの谷間の道や 公園があったら、ほんの数メートル後ろ向きに歩いてみてください。 いつも見ている景色の中に、意外な発見をすることがあります。

 今回、なぜこのことに触れたかと言いますと、同じものをいつも同じ見方で見ていては、なかなか新たな発見は できません。見た瞬間、勝手に「いつもと同じもの」とか「何も変化なし」との脳からの「はやとちり」情報に 惑わされてしまっています。映像は間違いなく網膜に映っているはずですが、映像をじっくり分析する前に無意識の内に、「いつもと同じ」 とのレッテルを貼り付けています。

常焦点モードの活用

 空いた電車の中や向かい合わせの席で、前の人と目が合って少しきまずい思いをしたことはありませんか。また 、長い廊下を歩いていて見知らぬ人と行き違うとき、目のやり場に困ったことはありませんか。性格にもよりますが、 わたしはこのような状況はどちらかと言えば苦手です。
 米国ではこのような場合、アイコンタクト後、必ず挨拶を交わすので気まずさはないのですが、日本で見知らぬ人に これをやると、間違いなく「少しアブナイ人」扱いになります。

 このようなときに気まずい思いをしないようにする方法があります。目を「常焦点」にするのです。常焦点とは、 使いきりカメラや簡易カメラのように焦点が固定されているカメラなどに設定されているもので、近くから遠くまで 広範囲にそこそこピントの合った写真が取れる焦点です。
 たとえば、3メートルに焦点を合うように設定しておくと、1メートルちょっとから無限遠の距離のものまでが、 そこそこにピントの合った写真が撮影できます。  では、人間の目を「常焦点モード」にする方法ですが、簡単な練習でできるようになります。



 両手を両耳のあたりに持って行き、両方の指先を同時に見ようとする、これだけです。もし見えないときは、 一度手を見えるところまで前方向に移動し、徐々に後方に見える限界まで移動させます。見えているのかどうか、 わかりにくいときは、適当に指先を動かすと、簡単に確認できます。 両方の指が見える状態のとき、ほぼ180度近くの視界になっています。 この状態になっているとき、目の前の人の目も当然、網膜には映っているはずですが、目と目が合うあの気まずさは 起こりません。ただし、相手側も同時に気まずさを感じていないかどうかは不明ですが。
 ひところ流行した、しばらく眺めていると立体映像が浮かび上がって見えるステレオグラムを見ているような感覚にもなります。 ただし、車の運転中は絶対に「常焦点モード」にしないでください。以前、知らないうちに「常焦点モード」になって しまったことがあります。なんとなく、すべてが「ひとごと」のように見えて(思えて)きてハンドルさばきも緩慢 となり、すんでのところで事故を起こしかけた経験があります。

 逆に「常焦点モード」では、たとえば毎日通勤で見慣れている景気の中の小さな変化、ちょっとした異変にも気づく ことがあります。
 さらに、この状態のとき、意外と頭の中は「無」の状態とまではいかなくとも、「無色透明」的な状態になります。 この状態でぼんやりしていると、ふとアイデアが浮かんでくることがあります。 多分、いつもは焦点を合わせている対象物の色や形、美しいかそうでないか、身に危険を及ぼすものか安全なものか など、実に多くの判断をし、さらにその対象物を逐次追跡しています。そのために脳ではエネルギーが消費されている はずです。 それに対し、「常焦点モード」では、エネルギーの消費がかなり減少し、脳のパワーに余裕ができるからではないかと 勝手に推測しています。

 座禅のときは目を閉じますが、決して寝ている状態ではありません。 仕事の合間、数分間試してください。少なくとも周りの人は「何か考えている顔」に見えていますから、変に目を 閉じて考え事をすると眠っていると誤解されるような心配もありません。 ただし、疲れているときや睡眠不足状態のときは、眠に引き込まれやすいので注意してください。

 脳のエネルギー消費を少し抑えて、その分「ヒラメキ」用に脳のパワーを回してみてはいかがでしょうか。