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第44回 技術の伝承


ある日突然に…

 先日趣味の切り絵に使う和紙の手持ちが少なくなり、いつもの和紙店に出向きました。
 棚からお目当ての和紙を取り出した所、明らかに品位の違う和紙が混ざっています。 品質はこの店で販売するレベルでしょうが、品位が明らかに異なるのです。
 店に確認すると、いつもの漉き元から仕入れたものとのことです。 どうも紙漉きの技術(ワザ)の伝承がうまくできていないようです。


紙漉きのワザ

 以前、この道50年以上紙を漉いておられる方から「自前で栽培した楮を使って漉いても、 昨日と同じものを漉くのは難しい。」とお聞きしています。 ですから、材料が変わり、漉く人が変われば、もうとんでもない差が生まれるのは当然です。
 振り返れば約5年前、それまで購入していた大阪の和紙屋さんから 「あの和紙はもう漉き元が店仕舞をしたので二度と入荷しません」と宣告され、私の和紙探しが始まりました。
 畿内の販売店はもとより、越前、土佐、吉野などの漉き元ともコンタクトを取りましたが、 それまで使っていた和紙と同レベルの品位を持つものはなかなか見つかりませんでした。
 ようやく、この京都の老舗の和紙店で今までのものより少し品位は落ちるものの、使えるものが見つかったときは、 ほっとしたものです。
 そしていつでも買えるものと安心していただけに今回の品位の著しい低下はショックでした。

私専用の和紙を漉いてもらうことに

 5年前の和紙探しの際、ある漉き元さんから「500枚単位なら専用に漉くことも可能。 ただし単価は千円ほど」と聞かされ、私の考える趣味の範囲をとんでもなく逸脱することから、諦めていました。
 ところが、今回、5年前まで使っていた和紙を持ち込み、「これと同じ品位のものを探している」 といってサンプルを渡しておいた和紙問屋さんから数日後に電話があり、 「200枚単位で専用に漉く和紙屋さんがある」との連絡がありました。
 手渡したサンプルの和紙の出来の好さを見た人の「職人魂」に火が付いたようです。
 さらに嬉しいことに、和紙の注文量が減っていることから、ロットも200枚単位、単価もかなりリーズナブルなものが提示されました。
 それでも私にとっては200枚とはすごい枚数です。自分の作品づくりに使うなら年間30枚もあれば十分なのです。
 でもこの話を蹴ると、極端な話、私自身納得できる切り絵が制作できなくなるのです。  また、この漉き職人さんを捕まえて、技術を伝承してもらわないと困るのです。 ここは思い切って注文をすることにしました。

伝承すべきこと

 団塊の世代の退職が始まり、技術の伝承を危ぶむ声があちこちから聞かれます。
 そんなことは、ずっと以前からわかっていたことですが、土壇場にならないと実感として湧かず、 放置していたツケが回ってきているのです。
 私も団塊の世代の一人として、何か伝承するものはあるのかと自問してみます。
 仕事面はともかく、ひとつだけ思うものがあります。それは「切り絵の楽しさ」を伝えたいのです。
 私自身これだけ嵌っているのです。広い世の中、私と同じように楽しさを感じる人は、必ずおられるはずです。
 たまたま、200枚もの和紙が間もなく入荷します。これも何かの縁、なにかのとっかかりと考え、 切り絵講習会を増やそうと思う今日このごろです。

 ところで皆さんは、伝承しておくべきものの対策はされていますでしょうか?



(更新:2007.4.10)