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第25回 あるべき姿


城下町

 私は城下町に住んでいます。豊臣秀吉の弟、秀長が百万石の威信をかけて郡山城を築城してから147年間、天守閣は存在しました。
 明治に入って城は廃毀されたため、現在は城跡として石垣と堀が残るだけです。
 その石垣には左手に宝球(ほうじゅ)、右手に錫杖(しゃくじょう)を持つ「さかさ地蔵様」 (石垣の中でお顔が下向きに置かれていることからそう呼ばれます)や、平城京の羅城門の礎石だったと言われるものなど、 権力にものを言わせ、あたり構わず石を集めて築城されたことが伺い知れます。
 天守閣がないが故に、観光の目玉とはなりにくく、春の桜の季節と秋のお祭りの時以外は、訪れる観光客も稀で、 ひっそりとした、時間がゆっくり流れているようにさえ感じさせる空間となっています。

天守閣出現

 この静かな空間に昨年の秋、唐突に天守閣が出現しました。これには驚かされました。
 市制50周年の記念事業の一環として、発泡スチロールで製作されたもので、築城(?)後約1ヶ月で廃城の運命でした。
 遠目に天守閣が見えると、なるほど城下町とはこのような風景になるのものかと思うところはありました。  やはり石垣には天守閣が似合い、本来のあるべき姿であることはわかります。
 ただ近づいて見ると、材質だけでなく予算の関係もあるのでしょう、屋根なども単純な直線で構成されており「薄っぺらさ」を感じ、 違和感を抱かざるを得ませんでした。 これが、果たしてあるべき姿かどうかは大いに疑問に思います。  あるべき所に、あるべき姿で建っていていて、初めて天守閣なのです。

 そしてこの春、桜の季節に同じ場所に立ってみました。この場所に立つのは、この町に移り住んで以来数度目で、 決して見慣れている風景ではないのですが、やはり現在の天守閣のない風景が自然です。

あるべき姿

 この2つの景色を比較して、ふと自分の姿について考えさせられました。 毎日の生活の中において、自分のあるべき姿などについては考えることは、まずありません。また、考えなくても支障の出るものでもないです。
 ただ、会社、家族、社会、趣味の世界など、いろんな面に対して自分はどうあるべきなのか、 また今後、どのような姿になりたいのか考えてみる機会を得ることになりました。 もっとも、考えたからと言って正解も間違いも見つかるものでもありません。
 単に自分の歴史を振り返るだけでなく、これからの指針を見出すためにも、このようなこと考える機会を与えてくれた意味で、 総工費2百万の1ヶ月の天守閣は、私にとっては意味がありました。
 今の自分が果たしてあるべき姿か、あるべき方向に向いているのかは、残念ながらまだ自分でも答えは出ません。 でも、時にはこのようなことを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。

 下は、桜満開の城跡です。この春撮影した中で気に入っているカットの1枚です。


    (更新:2005.6.1)