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第33回 新たな出会い・新たな試み


出会い・挑戦

 業務や私生活において、新たな人との出会いには、何らかのドラマが生まれます。
 ラッキーな場合やそうでもない場合、時には最悪のケースもあります。 だからこそ、人に会うのは面白いと思い、合う直前はドキドキもします。
 一方、これまでにないことへの取り組みや新たな手法には、大抵リスクを伴います。
 実績あることや従来方法の踏襲なら、失敗する確率も低く、安心な日々が過ごせます。
 ただ、この安心感が曲者で、とっぷり浸かっていると新たなものへの挑戦意欲が 削ぎ落とされることがあります。挑戦意欲のない人生を決して否定するものではありませんが、 私自身はなんとか挑戦を続けたいと願う人種です。
 新たな出会いやリスクを負って新たな取り組みを行ったとき、その代償として新たな喜び、 新たな感動が得られるとの経験則からの思いです。

きっかけ

 個人の趣味の範囲に留めていた切り絵ですが、「小さな親切、大きなお世話」と言われるかも知れませんが、 その楽しさを多くの方に知っていただこうと、講習会の開催を思い立ちました。 講習を行うには、材料の和紙が100枚単位で必要となります。
 地元奈良県の吉野でも和紙が生産されています。そこで地元で和紙の調達ができないかと考え、 まずは電話でコンタクトを試みました。電話でわかったことは、吉野の手漉き和紙は、今まで 私が使っているものより、自然にこだわり、手間隙をかけている分割高となります。 講習会で初心者が入門用として使うには、もったいないように思えます。
 仕方がないかとあきらめたそのとき、電話の向こうから「一度お会いして、ご指導を仰ぎたいと思います。 ご足労願えませんか。」との意外な言葉を聞きました。声から推測するに、私よりはるかに目上の方のはずで、 またそのことは先方も気づかれているはずです。これはお会いしなければならないとの気持ちが湧き、 お会いする日時を約束しました。
 吉野は自宅から車で片道約2時間の距離です。

新たな出会い

 工房にお邪魔すると、電話で一言話しただけなのに、すでに私の希望の色に染め上げた2種類の和紙が 天日乾しされていました。これを見た瞬間、挨拶を交わす前にすごい人に出会ったと直感しました。
 電話の話の中で、すでに価格面では折り合わないことはほぼ確実だったのです。 にもかかわらず、精一杯の対応を願っていたのです。
 ただ、手漉き和紙の100枚単位での仕入れの話は、結局価格面で折り合わず、そこそこに切り上げ、 和紙の魅力の話題に移りました。
 和紙とその材料、製造工程などについては、それなりに調べて知っていましたが、それは上面の知識でした。 和紙が持つ機能と能力、多様さ、またそれを漉く技術の凄さ、奥深さを初めて教えて頂きました。
 自然の色で染め上がった、なんとも味わいのある和紙やその機能を生かしたバックやベルト、 札入れ、お盆、作務衣などの多様な作品を見せて頂くにつれ、私も自然の色を生かした和紙で、何か新たな題材に 取り組みたいとの意欲が湧いてくるのを感じました。

新たな題材

 まず取り組んだのが、今回掲載している糸車を使って麻糸を紡ぐ情景です。
 杉皮染めの和紙を見て、まず最初に作品にしてみたいと思い浮かんだ題材です。 なおこの題材と紡ぐ人との出逢いには、また別のきっかけと出会いがあるのですが、 長くなりますのでここでは割愛します。
 私の切り絵の対象は、これまでただひたすらに仏像だけでした。 今回新たな素材と出逢うことによって、その対象に広がりを見せ始めました。
 杉皮染め以外に、檜皮染め、藍染め、よもぎ染めなども分けていただき、 その素材を生かす題材探しに夢中の日々です。
 さらに、楮の自然の色そのままの、なんとも暖かさを感じる色(淡いクリーム色)を生かした 題材も探さねばなりません。
 この日まで、和紙は限りなく真っ黒なもの、また目が痛くなるほどの白をひたすら探し続けてきました。
 そのような色は自然にはほとんどないのです。染料で強引に染め上げたり、あるいは強力に脱色する必要があるのです。
 自然の色の美しさに気付いた今、バカの一つ覚えのように黒と白の和紙だけを追い求めていたことが、 空しく思えるぐらいの出来事でした。

殻を破る

 すばらしい人に出逢い、素材本来の凄さを教えて頂いたことによって、自分が勝手に作り上げた 「殻」から開放されたような爽快な気分に浸っています。
 これからも、人との出会いをより一層大切にして行きたいと思います。 少なくともその日の内に行って合えるなら、臆することなく行動を起こすべきであることを痛感し、 今後の教訓にしたいと思います。


(更新:2006.6.26)