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第32回 目を覚ます


ピアノ

 以前とあるTV番組の対談の中で、ピアニストの中村紘子さんが「ピアノを弾く前には、 まずピアノに目を覚ましてもらう必要があります。」と話しているのを聞いたことがある。
 たとえば地方で公演する場合、ほとんど弾かれることのないピアノを使って演奏することがあり、 こういうときなんかは大変らしい。まず、ピアノに目を覚ましてもらわないと、良い音が出ないという。
 当然調律はされるはずだが、いくら正しく調律されていてもダメだという。そのような場合は、 ピアノの演奏会前に2時間ほど弾き続けて、「やっと目を覚ましてくれたかな」と言ったことになるらしい。
 物理的には、金属の弦が張ってあって、其の上をハンマーが叩くだけであり、 「どこが眠っていて、どこが目を覚ますのか」と突っ込みたくなるが、 これがそんな単純なものではないらしい。

我が家のピアノ

 我が家のピアノは毎年決まった時期に調律をしてもらっているが、その際、調律士が 「このピアノ、弾いてもらっていますね。」と以前言ったそうだ。
 娘がときおり弾き、さらに家内がボケ防止のつもりだろうか、弾いていることがある。 だからピアノも眠ってはいないらしい。これが調律士にはわかるようである。
 この話からすれば、ピアノもまた生き物のようである。
 もし生き物とするなら、「魂」が宿ってもおかしくはないのであるが、 今回はこの方向の話には触れないことにする。

コンピュータは?

 では、同じようにキーを持つコンピュータも眠るのだろうか。
 最終的には電子のオン/オフ(流れる/流れない)で動いているわけで、眠るも何もないように思う。
 しかし、コンピュータは電子デバイスだけで動いているわけではない。ハードディスクや キーボードといった多くの機械部分があり、ひょっとすればピアノ同様眠ることもあるかも知れない。
 我が家のメインマシンに限っては、ほぼ毎日立ち上げている。忙しくなくてもメールのチェックのために 毎日起動しているので、まず眠ることはないと思う。
 そういえば、動作環境を揃えるためだけにあるマシンは、数ヶ月や長いときは半年ぶりに起動させることがある。 このとき起動中にフリーズすることがたまにあり、再起動を繰り返すと動く場合もある。
 物理的な原因は、ハードディスクの不調とは思うが、それでも眠っていたことになる。

では我が脳は?

 機械ですらそうなんだから、人間の「脳」などは使わないとさっさと眠ってしまうことだろう。
 「毎日普通に生活や仕事をしているから大丈夫だろう」というのは甘い考えではないだろうか。
 仕事をしていると言っても、ルーチンワークに乗ったことの繰り返しには、 脳は使っていないといえば嘘になるだろうが、少なくとも本気を出して稼動はしていないはずである。 脳が眠ってしまっては大変である。

 果たして、私の脳は眠っていないだろうか。ちょっと心配になる今日この頃である。


(更新:2006.6.8)